『Up On The Table JACK TATI LIVE!』ジャック達

Up On The Table ジャック達.jpg

2019年3月16日(土)、吉祥寺MANDA-LA2でのライブ録音を収めた一枚。じつはこのとき一色さんは、ライブのリハに病院から通うほどの“もう助からないかもしれない”という重い病気で(ミュージック・マガジンのインタビューより)、つまりもしかしたらこのライブ盤がジャック達の最後の録音物になってたかもしれない…ってことだよね。少なくともメンバーはそのぐらいの思いで、当日演奏してたはず。客席にいた私はそんなことまったく気づかずに、それをただライブレコーディングゆえの緊張感なのだろうとだけ思っていたけれど…。

でも、そんな情報を取り払って聴くと、この『Up On The Table』というライブ盤は驚くほど「はじまり」の音がする一枚。前年に鈴木さえ子さんという新メンバーを迎えて、新曲も、前からある曲も、ハッとするような変化を見せていて、私たちが受け取るバンドのたたずまいはもちろん、それ以上に、バンドから見える景色が、今、すっかり違ってるはず、と感じる。一色さんがどこにもいかないで誰にもとられないで、ちゃんとジャック達の新しい章のページがめくられて、ほんとうによかった…!

というわけで、先行発売日から考えたらだいぶディレイ気味だけど、このライブアルバムの感想文書き留めておこうかな、と思います。

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このアルバム、先のミュージック・マガジンのインタビューによると「偶然だけど、アルバムの前半は新曲が多くてスタジオっぽい感じで、真ん中の3曲がリハのテイク。後半になるとライヴっぽい感じになっている」(一色)とのこと。


01「Introduction ~ 謎の帽子屋」
イントロダクションの、ピアノの音のみずみずしさ。キハラさんのギターと絡む、真新しい響き。2008年のリリースから幾度となく演奏された(ジャック達的)キラーチューンのこの曲が、こうなるんだ!と、シン・ジャック達のカタチがすとんとわかるようなオープニング。実際のライブのときは1曲めではなかったんだけどね。そんな、“アルバムとして”仕立て直された曲順の妙も感じる。

02「モナ・リザ」
一色さんが、5人でやるならデフ・スクールみたいな曲をと書いたナンバーだそう。洋楽オンチなのでデフ・スクール知りませんが(スミマセン)、ドラマティックな手ざわりがめっちゃイカす曲!Bメロから間奏へ、ピアノとギターそれぞれが辿る旋律がとてもよい。件のインタビューで、さえ子さんの音が入ったことでキハラさんのギターの立ち位置が変わったと明かされてたけれど、この間奏なんかはそれをすごく感じる。

03「唇にまだ君がいる」
そう、さえ子さんの音が入ったことで、キハラさんのギターは自由度が増したんじゃないかなって。大田さんが入ったときに、大田さんのずっしりと重心の低いベースが対極にあることでキハラさんのギターがより大きく遠心力をはらませられるようになった!と感じたことがあったんだけど、こんどはメロディを預けられる相手がひとり増えるんだものね。リズムギターをバックにさえ子さんのピアノが自由に転がっていく。逆にリズムを刻むピアノに支えられてキハラさんのギターが伸びやかにフレーズを描く。すてき。あーそれにしてもこの全員コーラスの青春っぽさ文化祭っぽさ!さえ子さん入っても、ベリィベリィジャック達。

04「海底のカフェテリア」
誰もが認める、このアルバムの白眉、だよね。一色詞・さえ子曲。このライブのときに初めて披露されたほんとの「新曲」で、聴きながらあまりのカッコよさに震撼とした。今まで分け入ってなかった、こんな隠れたダンジョンがジャック達にあったんだ!という驚き。そしてCDで聴いてあらためて、一色さんとさえ子さんのダブルボーカルのよさにくらくらしてる。ブランデー入りのとびきり甘いチョコレートみたいなこんな声を、一色進からこぼれさせるさえ子曲のおそろしさ…。「カッコいい一色くんを見せたくて作った」(インタビューより)と涼しい顔で、策士すぎるだろ…!なんてことない顔して凄いのは演奏もで、ピアノもギターもベースもドラムももれなくすばらしい。このバンドは、そのときどき瞬時に入れ替わりながら誰かひとりがゴール近くにいれば、あとの楽器はどんな遠くまでだっていけちゃうんだなと思う。その、気が遠くなるほどの判断の速さ、コンビネーションの自由さ、スケールの大きさ!さえ子さんが入ってさらに桁違いに。

05「君は2こ上」
さえ子さんのコーラスとピアノで甘酸っぱさと胸キュンが増し増しに。ライブ当日のセットリストではこれは後半に演奏された曲で(前半は一色さんはギター無しで歌に専念)、つまり円盤ではここで初めて一色さんのギター入りの5人のアンサンブルが聴けるんだけど、この音の溶け合い方がすっごくいい。とりわけ、たとえば間奏のこれが5人ジャック達!なんて複雑で魅力的な!好き!そして、こんな甘い曲調のくせして夏秋さんのドラムがさりげなく恐ろしいフレーズを叩いていて(まあいつものことですが)発熱しますね…。

06「暁ワンダーボーイ」
よい…。もうそれしか言えない…。ジャック達って本人たちからして「B級」を標榜してるところがあるしそれがサイコーに似合ってるんだけど、ふと俯瞰で見ると、この日本で誰よりも外タレっぽい一色進のボーカルが、そして誰よりも外タレっぽいジャック達のサウンドが、世界のど真ん中で鳴ってるな…って思うことがある。この「暁ワンダーボーイ」なんか聴くと特に。国境はみ出しちゃってるんだよねジャック達は。それにしても、一番最近のライブで一色さんが、大サビの大田・さえ子~夏秋・キハラと追いかけるコーラスについてメンバー間で出たと明かした「コーラス後半弱くない?」というセリフの破壊力が…(笑)もう、後半チームがいとおしい(笑)。でもこの“弱いほう”のコーラスがやみつきになるから実は最強説ある…。

07「BRING DOWN THE GOVERNMENT」
たぶん、リハ音源だという真ん中の3曲は、ここからかな。この「BRING DOWN THE GOVERNMENT」も、この日初お披露目だった新曲で、私はこのライブの夜の感想ツイートで「反政府デモに参加する人の歌だそうだけど、ジャック達の手にかかると途端にグラスゴーの労働者の歌みたくなるのなに!カッケー!」と書いたんだけど、まじそう思う。もー、外タレなんだからー。そのときはちゃんと認識していなかった一色さんの歌詞が、真にアバンギャルドでいっそうすごい。これじゃ凡百なバンドは一生追いつけねーよなー。そう、この曲のこのライブ盤のバージョンには、当日別録り(!)したお客さんのコーラスが入ってる。ライブ後芳名帳に記した名前もクレジットに。もしかしたらバンドの最後になったかもしれないCDに、ファンの声も名前も入れてくれようとしたのか…って思うと泣けちゃう…。

08「オーディナリー」
この曲をライブで初めて聴いたの2018年2月だったと思うんだけど、聴いたときから、ぜったい私の好きな曲だ!と思い、一刻も早く音源化してほしいなーと思ってた。こういう、淡々とすすむミドルテンポのロックンロールが大大大好きなんです。達郎さんの曲で一番好きかもしれない「BLOW」やチューインガム・ウィークエンドの曲で一番好きかもしれない「Water Pistol」と私の中では同じジャンル。好き!!!!好きなんです!!!!それにしてもこの曲の、淡々と鳴る夏秋さんのドラム、絶品すぎませんか…どうってことなさそうな顔して必殺…。ラスト近くのキハラさんのギターの響き、かぶってくるさえ子さんのピアノ、とてもよい。そして一色さんの歌詞「Ordinary day それはいい方の半分なんだよ」にどきゅーーーんとやられちゃう。なんてやさしい言葉で人を抱きしめてくるんだろう。こんなことずっと言われてたいし、こんな音をずっと聴いてたい。ジャック達、私の普通の日々の中でずっと鳴っていて。

09「ノベンバー気分」
ほら、これも外タレ枠。何唱法にトライしてるのかわからないけど(笑)、最後に吐息も入っちゃってるし、王道のロックンローラーよね一色さん。大田さんとさえ子さん(強いチーム)ののびやかでハッピーなコーラスもすばらしい!そしてこのリフのフレーズの小粋さ。ジャック達ではもう当たり前のようになっちゃってるけど、こういう「なんてことないイイ曲」を次から次へとくり出すことがどれだけ奇跡的か。ジャック達のレパートリーから、60年代のイギリスのチャートも青ざめるほどのヒットパレードがあふれ出してる。たぶんこのまま、ジャック達はどこまででもいっちゃう。

10「みみずく」
ここからが、インタビューで一色さんが言う「ライヴっぽい感じ」のパートかな。たしかに前半は新曲が多いので、ここでファーストアルバムのこの曲のジャーンという荒んだギターの音が聴こえてくると、ジャック達のホームグラウンドに帰ってきたような感じがする。ザクザクした風が吹き荒れるようなギターサウンド、とりわけ、一色さんのギターソロが息をのむ凄まじさ。その一色さんを見守るかのような他の4人の熱っぽい音がまたすごく泣ける…。

11「物憂げ」
ライブでは、キハラさんボーカルのこの曲から一色さんがギターを持った。その、キハラ×一色のギターアンサンブルが強烈にいい。以前のライブで、(この曲はキハラボーカルだから)「一色さんは休んでてくださいね」と言ったキハラさんに「いや、次の曲はオレのギターがカッコイイから」と言い切った一色さんのキッパリぶりが忘れられないけど(笑)、マジでカッコイイからな、この曲の一色さんのギター。キハラさんの魚座ボーカル(魚座関係ないか)のせいか儚い印象もある曲だけど、サウンドはあきれかえるほどド重たく荒れ狂ってる。後奏のギターとベースとドラムとか、それぞれ個別にどうなっちゃってるんだという…。ほんと、ある境界線を超えるとあらくれた魂がどこまでも自由に走り出しちゃうのを止められないバンドなんだ。

12「ブロッコリー」
このイントロ30秒の余すところのないカッコよさ、カウントから本編に突っ込んだ先の容赦ないリフのすさまじさ!この音を出せるロックバンドが世の中にいくつある!?さらに一色さんのへろへろボーカルとさえ子さんのチャーミングなおこボイスの交錯、キハラさんの凄まじくも王道ロックなギターと一色さんの前後不覚な破壊ギター、さえ子さんがどんどんブッこんでくる謎エフェクト、混迷を気にもかけずに圧倒的リズムで大暴れのベースとドラム、もうーーーわけわかんなくてサイコー!

13「Don't worryを探せ」
キハラ宙の文句なしにカッコイイリフ炸裂!さえ子さんの謎エフェクトも最高潮!ジャック達というバンドのシンプルなカッコよさと規格外のとんでもなさが、轟音の中で暴れまくってる!このアルバムを通して思うことなんだけど、この手がつけられない音をよくこんなふうにリスナーのもとで再び解き放てるように盤に収められるなって。技術的なことはまったくわからないけど、じつはものすごいミックスの魔法が発動してると思うのです夏秋さんの。

14「Up On The Table」
一色詞・さえ子曲の、完全スタジオ録音のまっさらな新曲が、最後にポツリと収められてる。次の季節の到来を告げるような。新しい風の匂いを感じるような。


前にツイッターにも書いたんだけど、私なんかひじょうに保守的なリスナーなワケなので、2018年10月のライブでのさえ子さんとジャック達の共演は衝撃的にカッコよかったけど、ジャック達にさえ子さんが加入すると一体どうなるのかってことはぜんぜん想像がつかなかったし(まあ今思えばメンバー自身も想像つかなかったとは思うけど 笑)、メンバーが選んだバンドの変化はよいものだろうと信じてはいても、無責任に「楽しみ」なんてことも言えずにいて。でもその後本当にさえ子さんが加入して何回かのライブで目の当たりにしたバンドの音のカッコよさ、そして今届いたこの『Up On The Table』のあたらしい音像に、今までにないほどのドキドキを感じてる。

さえ子さんが加わった5人のジャック達は、持ち前の開拓心にあたらしい好奇心や探究心を加えて、さらに広い音楽の平野へと飛び出していくんだろうと思う。丘を駆け上がり坂を駆け下り、珍しい茂みにもどんどん分け入り、高い城壁はまずのぼってみて、開かずの石の扉もガンガン叩き、つぎつぎとほかの誰も見たことがない景色を獲得していくんだろうなと思う。そんな旅に、私たちファンもついて行けたらいいな!

あたらしいジャック達。すごくワクワクしてる。これからもよろしくね。



『Up On The Table』ジャック達
一色進:vocals & guitars
夏秋文尚:vocals & drums
宙GGPキハラ:vocals & guitars
大田譲 from カーネーション:vocals & bass
鈴木さえ子:vocals, piano, keyboards, tambourine & others


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