ムーンライダーズの配信ライブ「Special Live 『カメラ=万年筆』」を観た!

今年3月に予定していた主催ライブ『moonlight jamboree #001』がコロナ禍のせいで一度6月に延期になり、結局は中止になってしまったムーンライダーズ。バンドとしての姿を見せてくれる気満々だった2020年のはずだったのに、もしこれでその気運がなくなっちゃったりしたらどうしてくれんだよコロナてめぇ…!と新型コロナの胸ぐらをつかんで詰め寄りたい衝動に駆られていた今年前半。でも!そんな彼らが、アルバム『カメラ=万年筆』の発売40周年を記念して(デラックスエディションの発売と同時に!)まさに40年前のリリース日の8月25日その日に渋谷クアトロでの無観客配信ライブを敢行してくれたのだった。

場所がクアトロだから、もしかしたら元々はオーディエンス入りの普通のライブをしようとブッキングしていたのかもしれないところ、それでも「中止」にせずなんとか無観客で配信でという形ででも「2020年のムーンライダーズ」を見せてくれようとする心意気に、まずグッときてしまう。何しろ、音楽系ニュースによると「2011年より活動休止中のムーンライダーズ。彼らがライブを行うのは、"活動休止の休止"をしていた2016年に行われた『Moonriders Outro Clubbing Tour』以来、約4年ぶり」なのだもの。

個人的な事情だけど、私はどうも家庭という日常の中で映画やドラマや芝居などの映像作品を見ることが普段から極端に不得意で、コロナ禍であれほどあったさまざまなライブ配信もほとんどスルーしちゃってた。でも、話がムーンライダーズとなれば別。得意とか不得意とか言ってる場合じゃなく、全能力を使って積極的に観るしかないんです、そんなの。というわけで、ライブ生配信のその日は家庭におけるすべての役割をシャットアウトして配信に集中するダンドリを組んでたんだけど、そもそも家族それぞれ別々の用事で誰も家にいなかったので、意外にあっさりと独りの世界でライブを堪能できたのだった。


Special Live 「カメラ=万年筆」/ムーンライダーズ
■日時:2020年8月25日(火)配信開始19:00/開演19:30
(アーカイブ視聴:8月30日(日)23:59まで)
■出演:ムーンライダーズ
■ゲスト:佐藤奈々子
■映像演出:ムーンライダーズ+石原淳平(DIRECTIONS)
■視聴チケット価格:3,800円(税込)
■視聴チケット購入可能期間:2020年8月15日(土)10:00 ~ 8月30日(日)23:59

moonriders2020.jpg

この日は配信の1時間ぐらい前から緊張で肩はガチガチ、胃までうっすら痛く…ライブ演るほうでもないのになぜ…。でもこれがムーンライダーズっていうことなんだよね、どれだけ特別で、どれだけ待ってたかってこと。ライブスタートの30分前、19時にドキドキしながら画面に入る。

ざわざわしたライブ前の会場。準備するスタッフの声が飛びかう。カメラは、セッティングしてある楽器をゆっくりと順に映し出していく。ケースに入って出番を待つくじらさんのトランペット。要塞のように組み上げられた夏秋さんのドラム。そしてスイッチングされる映像の中に、値札つきで並べられている『カメラ=万年筆』のCDやTシャツも。物販が、ある…!無観客となった時点でそんな必要がなくなったにもかかわらず、私たちファンを会場で迎えるかのようにきれいに並べられたグッズに、そしてそれを丁寧に映してくれる映像に、ライブ始まる前から胸が詰まる…。

開演時間が近づいてきて、各楽器が小さくチェックの音出しを始める。と、それに混じってメンバーの雑談も。昆布茶がどうとか、ネクタイがどうとか(笑)。ライブするという宣言だけでその都度ファンと業界に独特の緊張感を走らせる特別なバンドなくせに、一方の現場のこの緩さが実にムーンライダーズ…。クリアな配信に乗ってパラパラと聴こえてくる楽器の音は、まぎれもないメンバーそれぞれのもの。場末のバーで鳴るようなくじらさんのトランペットやヴァイオリン。センスよく転がる岡田さんのキーボードの旋律。ドコドコと感情を高めていく夏秋さんのドラムの音。良明さんのギターのやわらかく妖艶な響き。低く合わせていく博文さんのベースの音。…バラついていた雑談まじりのそれぞれの音は、気がつくと少しずつひとつに集まり、熱をもって、インプロビゼーションのうねりになり始めていた。

突然、映像は別室にいるモノクロームの慶一さんに切り替わり、「KEIICHI SUZUKI」のクレジットがバンと乗る。インプロが展開されているライブ会場の映像と交互に、演奏する各メンバーをクレジットで紹介しながら、カメラはタバコの吸い殻を捨て階段を通りステージに向かう慶一さんの背中を追う。中から聴こえる音がだんだんと近づいてくる。会場のドアに慶一さんが手をかけて開けた途端、ぶわっと飛び出してくる音のかたまり、その瞬間画面に「MOONRIDERS SPECIAL LIVE CAMERA EGAL STYLO」のグラフィカルなロゴがバーン!か、かっけーーーー…!!!!もう、この瞬間マイッちゃった、まだライブ本編始まってないのに。ナマでこの映像のクオリティ、なに!?凄すぎる!!

慶一さんはそのままインプロの輪の中に入る。この日のメンバーの位置取りは、ステージでなくフロアで円陣だった、意外にも。オープニングは後日の慶一さんのツイートによると、「地下水道」から「エレファント」を“エレファント・マン”と歌い、映画タイトル縛りとしたと。奇怪な音がしばらく空間を飛びかったあと、しゅっと収束したと思ったら、夏秋さんのカウントから“ラビュ、ラビュ…”「彼女について知っている二、三の事柄」。はあああカッコイイ…!!!!1曲終わって良明さん自身が思わず「テンション高~い」と言っちゃうほど、緊迫感のある演奏。そこでおもむろに水の張られたバケツが輪の真ん中に搬入され、博文さんが手ですくってピチャンピチャンと音を。メンバーのボイスとくじらさんのトランペット、あちこちから切れ切れに繰り出される勝手な謎音、不思議な夢の中にいるような「第三の男」

このあとの「無防備都市」のはじまりが印象的で、絶対に忘れられない。この日いちばんドキッとしたかも。夏秋さんと良明さんが視線を合わせた瞬間、雷が避雷針に落ちるときのようなバチッというスパークがふたりの間にひとすじ通ったのが見えた!と思ったら、瞬時の鋭い「タン!」の一発から良明さんのギターのイントロ…!なんていうテンションの高さ!!!!ここで起こってたことを、映像は逃さずモニターのこちら側の私たちに届けてくれたんだよね、ナマで、リアルタイムで。

「アルファビル」ってもしかしてライダーズでいちばんテンポ速い? とんでもない怒涛の演奏、60代70代のやる音楽じゃねえ!ま『カメラ=万年筆』全体がそういうアルバムですが…。ところでこの辺りでようやく私、「あれ…もしかして今日ってカメ万曲順通りに全曲演奏なの…!?」と気づいて震え上がる…(みんなわかってた?)。もちろん「Special Live 『カメラ=万年筆』」というタイトルのライブなのはわかってたけど、カメ万の曲中心にいろいろ取り混ぜるぐらいの流れを想像してたんだよね。いやいやいや!このもっとも生演奏が大変そうなアルバムを全曲演奏ってまじですか!15曲もありますけど!緊張感強いるイントロだらけですけど!しかもリハは2日しかなかった模様をツイで聞いてますけど!はーーーほんと、とんでもねえよムーンライダーズ…。いまだ、最先端。背中が見えないほど先へと疾走してる最先端。

「アルファビル」のワザと外しぎみのアウトロをキメてすぐ「24時間の情事」、くじらさんのヴァイオリンと良明さんのギターのリフの緊迫感、はーかっけえ。そして、ブレイクからの掃除機搬入!この音もアルバムを踏襲してるんだね。掃除機を携えた慶一さんが儀式のようにメンバーのところを順に巡って、神妙な顔で一人ひとりの声を吸い取っていく。メンバーがおもむろに着けたマスクや、搬入するスタッフのフェイスシールドまでもが妖しい見世物のように見える。なんというエキセントリックなショウ…。からの“イェイイェイオオ♪”「インテリア」。博文さんボーカルのカッコよさ、全員のユニゾンコーラス、これぞライダーズ!

円になったメンバーを魔方陣の線のようなカメラワークで映す趣向で、普段なかなか目にできないメンバーの楽器の手元やいつもだと遠くのステージの奥にある夏秋さんのドラム、まして背後からのショットが観られたの、とても貴重だった。夏秋さんが曲始まり前に、自分の太ももで軽くスティック鳴らしてタイミングとる、私の大好きなあのしぐさが間近でたくさん見られて熱出た…。しかし「沈黙」も、このアルバムの曲はことごとくイントロ短いね。普段ライブで演ってる曲もあるとはいえ、演奏するのが昨年12月以来のバンドがこんな緊迫感ある曲ばっかり15曲も、よく短いリハで仕上げたな…。

会場が暗転し、闇の中浮かび上がったのは真っ赤なワンピースの佐藤奈々子さん。詩の朗読のあと、良明さんのアコースティックギターが水面に滑り出すようにすっと入ってきて「幕間」。灯るライトと囁くような奈々子さんの歌声、それは小さなバーの片隅の流しの歌のようでもあり。夢か幻影か…。

慶一さんが「夏秋くんのスーツは40年前に私が着てたやつですね」とMCで紹介。以前にも聞いた例のスーツだったのね。ニューウェーヴ期に慶一さんが着ていたステージ衣装を、かしぶちさんの後を守るドラマー夏秋さんが40年越しで譲り受けて再現ライブで着るって、なんかもうグッときすぎて泣ける…。良明さんも着てみて肩は入ったけど腹がダメだった、とか、ゆるMC(笑)。

そんなボソボソ会話の挙句に突入する「太陽の下の18才」の疾走のあざやかさ!間奏のトランペットとギターの高らかさ!ああもうムーンライダーズってやつは!さらに慶一さんの「よし、武川歌うか」で「水の中のナイフ」。いつものライブのように「DA、DA、DA、DA!」で拳を突き上げ、リピートのところで“ハイ”というように手を差し伸べるくじらさん。私たちここにいるよ!と、モニターのこちらの私も思わず拳を振り上げ一緒に歌う。2015年にICUに入るほどの大病をしたくじらさんの声はかすれて、もちろん以前のハリのある声とは違う。でも、それでいいし、これがいい。44年間の記憶も宝物だし、今ここにある時間も宝物。変わらないことじゃなく、変わりながら「在り」続けることが、どんなにハードでそしてとうといかを、ムーンライダーズは目の前で泥々になって転がりながら見せてくれてる。

またバケツが登場して、今度は慶一さんが水しぶき担当。「ロリータ・ヤ・ヤ」をライブで聴いたことって、今まであったかな…。シンバルの不穏な音。ギターの不気味なコード。夢の中でうなされながら聴くような奈々子さんのコーラスの声。新型コロナを皮肉るようなみんなの咳払い。光る部品がついた慶一さんの謎マスク。40年前の音楽に最新の批評性を滑り込ませながら、なんてことない顔で2020年型の猥雑なアバンギャルドをぶちかましてしまう人たち、本気でヤバい…。

「ロリータ」ひきずりのフレーズをヴァイオリンが小さく引っ張る中、良明さんのペコペコいうブリキみたいなフレーズが乱暴に入ってくる、と同時にヴァイオリンもぎゅんと身をひるがえしてそのイントロの波に乗っかる「狂ったバカンス」、かっけーな!「欲望」奈々子さんのボーカル素晴らしすぎたし(目の当たりにしたあの発声!)目を見合わせて歌う慶一さんも嬉しそうだった。「大人は判ってくれない」もあまりライブで演らないほうのナンバーだと思うけど、この曲のカッコよさ、今日演奏されてはじめて気づいたかも。(そもそも正直言うと『カメラ=万年筆』は後追いのアルバムなのであまりちゃんと聴き込んだ記憶がないのだゴメンナサイ…。)良明+博文+くじらのコーラスは男っぽくてザ・バンドみたい。岡田さんのコンテンポラリーなキーボード、くじらさんの高らかなトランペット、良明さんのノイジーなギター、絡み合ってインプロビゼーションに雪崩れ込んでいき、「大都会交響楽」。気味悪い生き物が巨大化していくように演奏はメタモルフォーゼを遂げていき、高まったところでふっとカットアウト、電話の切れる音、会場の暗転、メンバーの名前のクレジット。カ、カッッッコイイイイ…。

この緊迫感の直後には、緩すぎるにもほどがあるメンバー紹介や告知があったけど。変化が急だな(笑)!この落差もまた言うならアバンギャルドだ…。告知内容はちょっと息が止まるほどの衝撃(それはまた)。

はーーーほんとにマイッたなー。トンガッた音トンガッたスタイル、いつでも追いつけないほどリスナーのずっと先を行くバンド。こんなライブをぶちかまされるとは思ってなかったし、ここまでの映像作品を贈り届けられるとも思ってなかった。リアタイで観た当日の観後感(なんて言葉ないけど)は、配信ライブというよりはなんだか濃厚な短編映画の世界をさまよった後のようでフラフラ、ライブだけどツクリモノのような、現実だけど夢の中のデキゴトのような、余韻…。


その後もアーカイブ視聴可能な期間中、思ったほどは観られなかったけど数回、ラスト日には惜しむように昼間2回と夜ギリギリにお風呂でスマホで1回、観た。何度も言うけど、ここまでのライブをよく作りあげたなと、ムーンライダーズというバンドに何千何百何十何回目か、また目を見張る思い。演奏の精度を高めていかざるを得ないリアルタイムの配信ライブで、演奏しにくいこのアルバムを演奏しにくい曲順のまま、よく演奏し倒したなって。ムーンライダーズって非常にコンセプチュアルな頭脳派のバンドだと思われているけれど、コンセプチュアルな音楽が成立していることの裏にあるのは、こうして実際に彼らが高いクオリティーでアルバム全曲を生演奏してしまうという、おそるべきフィジカルなんだよね…。まして60代70代の彼らが。良明さんがライブ後に「40年前より自由にできた感じがする。老齢による自由度だな」と冗談めかして言っていたけれど、このプリミティヴな身体性こそがムーンライダーズというバンドだし、ムーンライダーズの重ねてきた44年間だということを、はからずも圧倒的な内容で突きつけたエポックメイキングなライブだったんじゃないかな。

そしてこのバンドのそうした魅力を、今回の映像チームは深く理解して私たちに伝えてくれようとしていたのではないのかなと感じる。コンセプチュアルな演出、スタイリッシュなグラフィック、精緻なカメラアングルとスイッチング、計算しつくされた光と影の美しさ。その俯瞰の一方で、カメラはメンバーの手元足元にも迫り、このバンドのフィジカルから生まれた音が、有機的に絡まり合って複雑怪奇な夢を紡ぐ不思議を、驚きとともに映し出していたのではないかなと思う。

あともうひとつ、(月ドラなのでどうしても書くけど、)ドラマー・夏秋文尚さんの存在感の大きさをあらためて感じるライブだったな…。今回の全曲演奏のような密度の高いライブに、夏秋さんのドラムの冷静かつ果敢な瞬発力は欠かせなかったと思うし、40年前の『カメラ=万年筆』というアルバムに込められ今もバンドの芯にあるかしぶちイズムは、夏秋さんの音からあふれてほとばしってた。以前にも書いたのだけれど、メンバーとともに長く演奏してきてとりわけかしぶちさんから厚い信頼をおかれてきた経緯があって、ムーンライダーズの音楽性を理解しかつ「進化」もさせることのできる夏秋さんが傍にいてくれることで、ムーンライダーズという44年目のモンスターバンドは、奥底からまだまだ新たに引き出されるスペックに自身で驚きながら、長い旅を走り続けられるんじゃないかなって思ってる。


はーーーほんとにすごいライブだった。今も思いがそこから離れがたいほど…。コロナに見舞われた世界がどんなにひどく思えても、ムーンライダーズがいれば大丈夫だ。ムーンライダーズがいれば生きていける。これからもどうか、よろしく頼みます。慶一さん、岡田さん、良明さん、くじらさん、博文さん、夏秋さん、かしぶちさん、映像チームやスタッフのみなさん、素晴らしいライブをありがとうございました!!!!

(書き足りてない気もまだするけどとりあえずアップ)


【キロク】
ムーンライダーズ「カメラ=万年筆」のリリースから40年!記念ライブを発売日に開催
2020年8月7日 16:00(音楽ナタリー)

ムーンライダーズが1980年リリースのアルバム「カメラ=万年筆」の発売40周年を記念して、8月25日(火)に有料配信ライブ「Special Live『カメラ=万年筆』」を開催する。

2011年より活動休止中のムーンライダース。彼らがライブを行うのは、"活動休止の休止"をしていた2016年に行われた「Moonriders Outro Clubbing Tour」以来、約4年ぶり。今回の公演は「カメラ=万年筆」の発売日である8月25日にスペシャルライブとして開催される。当日は東京・渋谷CLUB QUATTROで無観客のライブを行い、その模様が生配信される。GRAPHERS' GROUP主宰の石原淳平を共同演出に迎えた、映像やカメラワークにこだわったライブが行われる予定。チケットは8月15日10:00に販売スタート。料金は3800円で、購入者は8月30日までアーカイブ映像を視聴することができる。

ライブの翌日である8月26日には「カメラ=万年筆 デラックス・エディション」が発売される。リハーサルテイクなどの未発表音源を収録した3枚組の作品としてリリースされ、アルバムに付属するブックレットには小暮秀夫と佐藤優介(カメラ=万年筆)による解説や鈴木慶一へのインタビューが収められる。


カメラ=万年筆 Special Live チケット案内.jpg


この記事へのコメント