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zoom RSS クミコ スペシャルライブ AURA〜松本隆の世界を歌う〜 @ 青山円形劇場

<<   作成日時 : 2011/05/01 04:27   >>

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もともとは3月28日に行われるはずだったライブが、震災の影響による延期で1カ月後のこの日になった。クミコさん自身が、3月11日にはコンサートのために石巻を訪れていて、数時間後に自分がそこで歌うはずだったホールが津波に飲まれるのを、逃げ延びた高台から見たのだそう(クミコさんのブログより)。そんなできごとを経てなお、この特別なライブが、中止などにならず延期して開催されたことに深く感謝。日付の関係で、一緒にこのライブを見るはずだった(そして誰よりもこのライブを見て欲しかった)私の友人2人が来れなくなったのはとても残念だったけれど…。

クミコ スペシャルライブ AURA
〜松本隆の世界を歌う〜
2011年4月29日(金・祝)
東京都 渋谷区 青山円形劇場
開場16:30/開演17:00
前売・当日 6,300円 (全席指定・税込)


2000年に出たクミコさんの『AURA』というアルバムは、個人的に思い入れがありすぎて、ちょっとやそっとの言葉では語れない。音楽から遠ざかって久しかった私を、ぐいとこちら側に引き戻してずぶずぶにはまりこませたアルバムだったし、それは音楽との再会というだけでなく、人生を内側からひっくり返されちゃうような体験、でもあった。ほんとうに、どれだけ繰り返し聴いたかわからない。

その『AURA』全曲を、11年ぶりにクミコさんが歌うという。女性の「業」みたいなものと切り離せない(作詞はすべて男性の松本隆さんなのだけれど)このアルバムの曲を、今40代半ばの私はどう感じるんだろう?30代のときとはちがうのかな?そんなことを、こわごわと思いながら青山円形劇場の席につく。

バンドメンバーが位置についたあと、美しいラインの黒ドレスにキャンディのようなきれいな色のネックレスをかけたクミコさんが、中央の舞台へと進み出てくる。そして、お客様への挨拶やこのライブへの思いをいくつか語ったあと、「今日はこのアルバムの曲順どおり歌います」と宣言。“えっ…!”と動揺してしまう私。この思い入れのあるアルバムを、思い入れのある曲順どおりに、だなんて!

1.ままごと(作詞:松本隆 作曲:細野晴臣 編曲:鈴木慶一)
2.ちょうちょ(作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:鈴木慶一)
3.昼顔(作詞:松本隆 作曲:植野慶子 編曲:鈴木慶一)
4.かみかくし(作詞:松本隆 作曲:あがた森魚 編曲:鈴木慶一)
5.銀幕の雨(作詞:松本隆 作曲:鈴木慶一 編曲:鈴木慶一)
6.接吻(作詞:松本隆 作曲:植野慶子 編曲:かしぶち哲郎)
7.心の指紋(作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:鈴木慶一)
8.情熱(作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:鈴木慶一)
9.蜜柑水(作詞:松本隆 作曲:coba 編曲:鈴木慶一)
10.千とひとつの夜(作詞:松本隆 作曲:リムスキー=コルサコフ 編曲:かしぶち哲郎)
11.やさしい娼婦(作詞:松本隆 作曲:鈴木博文 編曲:鈴木慶一)
12.鳥の歌(作詞:松本隆 曲:カタロニア民謡 編曲:鈴木慶一)

案の定、はじまったイントロの、あまりにもカラダ馴染みのある「あの感触」に、いっきにぐらんぐらん揺さぶられてしまう。「ままごと」、細野さんの、不気味カワイイ旋律。このアルバムばかり聴いていた濃い日々と、11年の間隙が、わけのわからない混ざり方で全身をぐるぐる駆け巡ってどうしようもない。「木綿の糸が針の穴 通ればきっと縫えるから」繊細な言葉のひとつひとつを、自分が驚くほどあざやかに覚えていることにも鳥肌が立つ。

「ちょうちょ」。トマトと…、ショートケーキの箱と…、石鹸と…、ああそうだった、なんて思いながら、涙があふれて困る。あのとき感じたこと、もしかしたら、今もっとリアルに感じてるかも、なんてふうにも思えて、そのことに気づくともっとこわくなったり。

このまま、イントロが始まるたびに涙でぼやけるんじゃ困るなと思ってたら、それは意外に、最初の2曲ぐらいでだいじょうぶだった。たぶん、11年離れたあの地点とこの地点を結ぶ嵐のような作業が、私の中でひと段落したみたい。あとはわりと、今の私のフラットな視線で聴けた。

「かみかくし」や「銀幕の雨」。歌の舞台は戦争のさなかの昔で、2000年の私は過去のことを思いながらこの曲を聴いてたのだけれど、昨日聴いたらむしろ未来の歌にも思えた。歌と私の位置関係がくるりと入れ替わってたし、歌と私のあいだの時間的な距離が、なぜだかずっと近くなってた。「歌」って、過去に置き去りにされて遠のくばかりじゃない、生きて動いて近づいたりもするものなんだ…、とびっくりする。

激しい荒天のあとの、静かな夜明け。「銀幕の雨」から「接吻」へのシーンの切り替わりは、夢からだんだんに目が覚めてゆく時間のよう。このアルバムは、曲順や、曲間にさえ、魔法がかかってる。クミコさんが最初にCDどおりに歌いますと言ったときに、「この曲順は当時松本さんと、ほとんどくじ引きのようにして適当に決めた覚えがあるんですが、でもこれが絶妙で」と笑ってた。ほんとにそう、絶妙。

ああ、それにしても。どの曲も、なんて壮絶なんだろう。こんな12曲がひとつのアルバムに入っていることが、今でもやっぱり奇跡に思える。作詞家も作曲家も、命を削るギリギリのところで書いている曲ばかり。同じような思いをして曲を書いてといわれたら、みんなもう嫌だって言うんじゃないかな。とりわけ松本隆さんの詞は、やっぱりすさまじかった。複数の作曲家を相手に、こんな果たし合いのようなことをひとりで12曲も、タメイキが出る。11年前の私も、彫刻刀でひとつひとつ彫るように、言葉を、音を聴いていたから、それは深く深く刻み込まれて自分のカラダの一部みたいになっていて、目の前のクミコさんにちょっとふれられるだけで、驚くほど感応する。

あの頃、アルバムの中で私がいちばん好きだった曲が、この日もやっぱりいちばん深く響いてきた。「やさしい娼婦」。この曲の鈴木博文さんのメロディと松本さんの詞は、なんてはかなくうつくしいんだろう。そしてこの曲もそう、遠のくよりむしろ、ずっとずっと近くなってた。そのことがこわいような気もしたし、いとおしいような気もした。

12曲を歌い終えて、クミコさんが客席の松本さんを舞台に招き入れて、拍手、そしてしばしのトーク。松本さん、ちょっと猫背で、細身のスーツで、やさしい声でぼそぼそしゃべる、ああ素敵。クミコさんにおニューの靴ですかと聞かれて、そうですと照れる。お互いの出会いや『AURA』制作時の話など。松本さんが「ケイイチ」と言うときの響きがあいかわらず20代みたいでしかもあいかわらずちょっと先輩面で、もう(笑)。

このトークのときにクミコさんが「『AURA』はアイドルには書けないような過激な詞ばっかりで」とやや茶化し気味に自虐気味に言っていて、松本さんも笑って「アイドルに書けない不平不満が全部出たんだよ」なんて答えてたんだけど、そのクミコさんの言い方のトーンに、じつはそのときはちょっと違和感を感じたの。なぜって、この『AURA』の松本さんの詞のすごさは「タブーを破った過激さ」というような瑣末なところにあるのじゃなくて「人間や生の本質を貫く」という、表現の価値のど真ん中にあるはずだと思ってたから。

でもね、それよりあとのMCでクミコさんが、石巻で震災を目の当たりにして、東京に帰ってからも自分はもう歌えないんじゃないかと思うほどの心境にもなって、でも、「私はステージでは泣かない歌い手になると決めました。そう決めないと歌い出せないと思ったので」と静かな口調で語ったとき、ああそうか、と思った。『AURA』の歌詞のすごさなんか誰よりも骨身にしみているクミコさんが、そのことで泣いてしまわないための回避方法が、あのちょっと作品をからかうような口調だったのかなって。なんとなくだけど、そうかなと、思った。

『AURA』以外の松本詞の3曲(「おかえりなさい」「さいごの抱擁」「チューリップ」)も歌い、アンコールでは、「赤いスイートピー」を客席と一緒に歌う演出。最後はクミコさんとバンドメンバーともう一度呼び込まれた松本さんが、並んでほがらかに手を振って、会場を出て行った。


ライブ前「このアルバムの曲を、今40代半ばの私はどう感じるんだろう?」「30代のときとはちがうのかな?」と想像していた。でも、「私自身の11年の変化」「クミコさんの11年の変化」は、意外なほど感じなかった、のが正直な感想。むしろ、歌のほうが生きて動いて位置やポーズを変えてるみたいでびっくりした。過去にあると思ってたのに未来のほうにいたり。遠ざかってると思ってたのに近くにいたり。メリーゴーラウンドから見る景色のようなもので、どちらが動いてるかなんてはっきりしないけど。

『AURA』は思い入れが強すぎて、つまり当時の空気と結ばれすぎていて、長いこと聴いていなかったアルバムなのだけど、ライブ後、久しぶりに出してきた。今響かせることが、またおもしろそうだし、私の何かを動かすのかもしれない。


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